新国立劇場《イェヌーファ》H28,3,8

観終えた後に「ああ、もう一度観たいな…。」と思わせてくれるオペラに出会える機会はそう多くはない。今回、そう思える作品に出会えたことを喜びたい。
これまで、ヤナーチェクはフォークトで聴いた《霧の中で》ぐらいしか(10年前!)覚えがなく、オペラは初めての経験。今までその音楽を積極的に聴こうと思ってこなかったが、友人の勧めもあり、今回接することができて本当に良かった。
正直言って、1幕目は「どこにでもあるような話…、音楽も垢抜けない…」という印象だったのだが、ドラマが動き始める2幕に入ってくると、その悲劇が切実に胸に迫ってきた。
因習が支配する、閉鎖的な村社会で、婚前の過ちから生まれた命を保身のために消し去るという惨い内容だ。家族だからこそ、愛憎も複雑で、より強いものになる。

この《イェヌーファ》は、オペラという名から一般的にイメージされる、華やかで美しい恋愛悲劇や、誇り高い英雄の活躍からは、とても遠い位置にある。そこに描かれているのは、人間の弱さや脆さ、愚かさであり、生きるということの思い通りにならぬ人生の複雑さだ。
世界は残酷で、痛みに満ちているという現実を、真正面から突き付けてくる。こうした題材で、オペラを創り上げるというのは、作曲家としては勇気がいることではなかったかと思う。

登場人物をこれほどまでに身近に感じることのできるのも、人間のどうにもならない脆さと愛を描いているからだろう。ラツァも、コステルニチカも、シュテヴァも、そしてイェヌーファも、私であり、あなたでもある…。

この現実の痛みを救う光となるのは、やはり信仰なのだろうか。
ヤナーチェクが描いた、イェヌーファによる神への祈りは、痛みを包み込むように、たとえようもなく暖かく柔らかいものだった。ここまで宗教性の高い作品だとは思わなかったが、この救い(赦し)が、オペラをストーリー的にも音楽的にも素晴らしいものにしているのだろう。
ヤナーチェクの音楽は、後期ロマン派の薫りも漂う、大変聴きやすいもの。演奏にもうすこしメリハリがあってもよいのかもしれないが、音楽を味わうのには十分であったと思う。

演出をするうえでは、いろいろとコンセプトがあったのだろうが、あまり気にならない部分が多く、ドラマの進行を妨げないシンプルな方向だった。
このオペラは、すでに高い現代性を持ち合わせているので、作品が伝えようとしているものに、異なる視点を求めるような過剰な演出は必要ないだろう。
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by marupuri23 | 2016-03-10 23:00 | opera | Comments(0)