能《経政》、琵琶《竹生島詣》~ゴルドーニ劇場 H28.9.18

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 上演前の舞台にはカ・ペーザロの東洋美術館にある屏風絵が映し出されており、これから始まる能舞台に向け雰囲気を盛り上げていた。今回の能《経政》は、平家物語に題材を取ったものであることから、この屏風絵も平家物語での合戦を描いたものを使用したそうだ。
 
 時間になると、まず坂東眞理子さんの講演から。着物姿で登場し「こんばんは」とご挨拶。ルペルティ・ヴェネツィア大学教授(今回の巡回公演に尽力されたとのこと。イタリアにおける日本文学および演劇研究の第一人者)が通訳をされていた。
 平家物語についての説明と、日本伝統芸能へおける影響、そして冒頭の「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色…」を日本人で知らない人はいない、と。これが琵琶法師によって語られていたことを受け、まずは琵琶による《竹生島詣》から。これは能《経政》のもとになった平家物語巻七からのもの。

 ちゃんと字幕(もちろん、イタリア語ですが)付き、この原文を訳すのはさぞ骨が折れただろうと…。琵琶の音色とともに、日本の「語り」の妙技が披露された。動きが無い分、微妙に変化していく、音の響きに集中することができたのではないかと思う。隣の若い女学生さんも、身じろぎせず聞き入っている感じ。私はといえば、さすがに旅先&ダブルヘッダーの状況で、意識が遠のいてしまい...(豚に真珠で申し訳ないと)。

 休憩をはさんで、能《経政》の上演へ。櫻間右陣氏(能の家櫻間家の第二十一代当主)がシテをつとめ、能としては一場面の簡素な構成だ。《竹生島詣》での雅な平経政(経正)は、すでに討ち死にしており、幽霊となって琵琶の音色を慕って現れる。最後の修羅道での壮絶な責苦(恨めしいと…、雅な貴公子だっただけになお哀れだ)を嘆く場面を除いては、昔を懐かしむ風情の、端正な流れ。あっという間で、まさに灯っていた燈火がふっと消えてしまったような幻の世界だった。

 能については、多く観ているわけではないので、感想など恐れ多い。だが、やはり「能舞台」というのは大事だなと。能舞台というのは、ただの「舞台」ではない。あの橋掛りは「異界」(もしくは神界)への橋掛かりで、それを渡って、シテは現世を超えた「何か」になるのだ。私は、そのことにいつも、鳥肌が立つような畏怖を感じてきた。
 また、能が始まる際に、舞台裏から流れ出る笛の音を、異界を呼び込むための合図のように感じてきたが、笛(能管)が縄文時代の石笛と酷似しており、石笛が神を呼ぶ楽器だったということを知った時、「やっぱり」と思ったものである。

 こうした「異界」に身を置く感覚を、こちらの観客の方々にも感じてもらえたら、嬉しいな、と。
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by marupuri23 | 2016-10-03 22:27 | イタリアへの旅  2016 | Comments(0)