フェルッチョ・フルラネット ~ トッパンホール H28.10.07

 イタリアのバス歌手、フルラネットのリサイタルへ。
 本人の提案により、ロシア歌曲プログラム、しかもラフマニノフ&ムソルグスキーという滅多にない内容だ。これがロシア歌曲ではなく、もう一方の提案であったという《冬の旅》だったらチケットを求めなかっただろう(《冬の旅》はもちろん名曲中の名曲だが)。ラフマニノフの曲は、私にとっても馴染み深く、ラフマニノフ自身がピアニストだっただけに、素晴らしいピアノ曲がいくつもある。ロシアの薫りを強く感じるコンチェルトはもちろんだが、ピアノ・デュオもいい。ほとんど演奏されないが、交響曲も好きだ。

 しかし、声楽曲は聴いたことがなく、むろんムソルグスキーに至っては《展覧会の絵》しか思い浮かばない…。ラフマニノフの歌曲への好奇心が勝って、今回のコンサートへ駆けつけることとなった。

 プログラムの前半は、ラフマニノフの歌曲から。プログラムを読むと、彼の歌曲はロシア声楽史の最高傑作で、しかも最初期(10代最後)から秀作を連発しているとのこと。もう仰天である。実際聴いてみて、その美しさにまた驚愕し、うっとりと我を忘れてしまうという感覚に陥った。その旋律の甘美なことといったら、もうこの上ない。ロシア語がどうだという前に、すでに旋律がラフマニノフ節全開である。
 愛の歌が中心となっていたが、特に《秘やかな夜の静寂の中で》での夢見るような歌、「愛しい君の名を呼んで、夜の闇を突き破るだろう...」と、最後に高音のピアニッシモでささやくように歌われたフルラネットの声は陶酔感に満ちて、この世のものではないような響き。プログラム終了前だが、観客席からも思わず拍手と「ブラヴォー」の声が飛ぶ。
 フルラネットの声はバスで力強いものだが、高い表現力で、バリトン曲はもちろんソプラノ曲まで柔軟に歌いこなしていた。限りなくロマンチックな曲を、情熱を込めて歌い上げる姿に、やはりイタリア人だなぁと。
 そして、ピアノ(イーゴリ・チェトゥーエフ)も力強い厚みのある音、そしてラフマニノフ特有の華麗さが存分に伝わるもので、息もぴったり。

 プログラム後半は、ムソルグスキー。なんといっても歌曲集《死の歌と踊り》が圧巻。プログラム前半が生の喜びだったのとは反対に、死の勝利に。バスの底力がここぞとばかりに迫ってきて、その凄みといったら、まさにフルラネットの真骨頂。なんという異色の歌曲だろうか、ロシア歌曲の金字塔とのことだが、それも納得。死の勝利を謳い上げた、めまいのするようなドラマが展開され、ただただ圧倒されるばかり…。

 アンコールがまた、にくい選曲だ。ラフマニノフの歌劇《アレコ》からカヴァティーナに、アントン・ルビンシテインの歌劇《デーモン》からアリア。
 たぶん、一生舞台で観ることのできないオペラな気がする…(《アレコ》はLDで観たけれど)。

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by marupuri23 | 2016-10-09 00:18 | コンサート | Comments(0)