ランジェ公爵夫人~再び、リヴェットの世界へ
もうずいぶん昔、今は無き三百人劇場でフランスの映画監督リヴェットの特集が組まれたことがありました。そこで初めて接した監督の作品が、フランス国内で上映禁止になった「修道女」。ディドロの原作を映画化したこの作品は、カトリックを冒涜しているとして上映禁止となったのですが、当時そんなことは知らずに観て、修道院における内実を暴露的に描くストーリーに衝撃を受けました。主演のアンナ・カリーナの悲壮な美しさ、目に焼きついています。
そして今再びリヴェット作品に巡り合ったわけですが、今回はバルザックがフランツ・リストに捧げた「ランジェ公爵夫人」が原作。ラシーヌを思い起こすような、フランスの古典から綿々と列なってきている恋愛心理劇で、台詞中心。舞台劇を見ているようで、まさに「フランス的」な映画。「修道女」と同様の手法でストーリーが紡がれていきますが、その映像は甘さや誇張を排したストイックさ、強いリアリズムを感じます。
それでもやはり、ここに描かれる19世紀は美しいこと!
2月に観たルーブル美術館展に出品されていたような工芸品の数々が背景にありますが、見事な細工の燭台や装飾時計、食器、家具などは、美術館で観るよりも実際に使われている場所に置いた方が、数倍映えます…。
ストーリーは恋愛の典型的なパターンの一つ。相手を失ってから、その愛に気付くものの、時すでに遅し。その遂げられぬ思いを抑えるには、自分自身を滅ぼす以外にない…。
こうして、フランス正統派の恋愛心理劇を久し振りに堪能、充実気分。
「恋愛とは多くの場合、お互いがお互いを取り込もうとする戦争です。戦争であるからには犠牲者が出るわけです…。」サガンの言葉、思い出しました。