カテゴリ:イタリアへの旅  2016( 34 )

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 上演前の舞台にはカ・ペーザロの東洋美術館にある屏風絵が映し出されており、これから始まる能舞台に向け雰囲気を盛り上げていた。今回の能《経政》は、平家物語に題材を取ったものであることから、この屏風絵も平家物語での合戦を描いたものを使用したそうだ。
 
 時間になると、まず坂東眞理子さんの講演から。着物姿で登場し「こんばんは」とご挨拶。ルペルティ・ヴェネツィア大学教授(今回の巡回公演に尽力されたとのこと。イタリアにおける日本文学および演劇研究の第一人者)が通訳をされていた。
 平家物語についての説明と、日本伝統芸能へおける影響、そして冒頭の「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色…」を日本人で知らない人はいない、と。これが琵琶法師によって語られていたことを受け、まずは琵琶による《竹生島詣》から。これは能《経政》のもとになった平家物語巻七からのもの。

 ちゃんと字幕(もちろん、イタリア語ですが)付き、この原文を訳すのはさぞ骨が折れただろうと…。琵琶の音色とともに、日本の「語り」の妙技が披露された。動きが無い分、微妙に変化していく、音の響きに集中することができたのではないかと思う。隣の若い女学生さんも、身じろぎせず聞き入っている感じ。私はといえば、さすがに旅先&ダブルヘッダーの状況で、意識が遠のいてしまい...(豚に真珠で申し訳ないと)。

 休憩をはさんで、能《経政》の上演へ。櫻間右陣氏(能の家櫻間家の第二十一代当主)がシテをつとめ、能としては一場面の簡素な構成だ。《竹生島詣》での雅な平経政(経正)は、すでに討ち死にしており、幽霊となって琵琶の音色を慕って現れる。最後の修羅道での壮絶な責苦(恨めしいと…、雅な貴公子だっただけになお哀れだ)を嘆く場面を除いては、昔を懐かしむ風情の、端正な流れ。あっという間で、まさに灯っていた燈火がふっと消えてしまったような幻の世界だった。

 能については、多く観ているわけではないので、感想など恐れ多い。だが、やはり「能舞台」というのは大事だなと。能舞台というのは、ただの「舞台」ではない。あの橋掛りは「異界」(もしくは神界)への橋掛かりで、それを渡って、シテは現世を超えた「何か」になるのだ。私は、そのことにいつも、鳥肌が立つような畏怖を感じてきた。
 また、能が始まる際に、舞台裏から流れ出る笛の音を、異界を呼び込むための合図のように感じてきたが、笛(能管)が縄文時代の石笛と酷似しており、石笛が神を呼ぶ楽器だったということを知った時、「やっぱり」と思ったものである。

 こうした「異界」に身を置く感覚を、こちらの観客の方々にも感じてもらえたら、嬉しいな、と。
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 今年、日本イタリア外交関係樹立150周年記念の事業が多く催されていることは(展覧会ではカラヴァッジョやポンペイ壁画、メディチ家の秘宝、モランディ…等々)、ご存知の方も多いと思うが、ではイタリアで日本側がどのような紹介をしているのかということは、あまり知られていないのではないだろうか(もちろんHPを見れば、概要を知ることができるが…)。

 この夏に、ローマで大々的に日本仏像展があったということは知っていたが、イタリア各地で能楽公演が催されていることは知らず、今回ヴェネツィア行きを決めてから、ゴルドーニ劇場で公演があるんだと…。
 ほか、ローマのアルジェンティーナ劇場(ナヴォーナ広場へ行く際に通ったので、あそこかと)、フィレンツェのペルゴラ劇場、ヴィチェンツァのテアトロ・オリンピコ(パッラーディオ!行きたい)にて演目を変え公演を行っている。本格的な能楽公演は約二十年振りとのこと。

 チケット購入時には、結構空席が目立ち心配していたが、開演時にはプラテア(平土間)は満員、パルコ(2階以上)はボチボチといった感じで、ひとます安心。
 日本人は、関係者を除いては現地にお住まいといった感じの方が数名で、日本人観光客などは私ぐらいだったのではないかと思う。印象的だったのは、若い方が随分と多いということだった(学生さんだろうなと)。
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 オペラの故郷ともいえるヴェネツィア、その故郷を訪れ、現代に残る華麗なフェニーチェ劇場でイタリアオペラを観るというのは私の長年の夢だった。
 今年はヴェネツィアに行こう(というか、行かねばならない、と思ってしまった)と計画を立てた際に、まず真っ先にこの劇場の上演スケジュールを検索。行けそうな時期に、ベッリーニ作曲《ノルマ》が上演、しかもマリエッラ・デヴィーアがノルマを歌う!…これでもう決まりだ。
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 ローマからヴェネツィアに到着後、サン・マルコ広場近くのホテルにチェック・インしてすぐに劇場へ向かう。開演時間が迫っていたため、美しい広場を横目で見ながら慌ただしく通り過ぎ、迷路のような路地を曲がった先に、その劇場は突然姿を現した。
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 劇場と言われなければあまりにもこじんまりとして、白亜の清楚な佇まい。でも、一歩入ればまさに劇場というほかにない、「醒めながら観る夢」に誘うような華麗な空間が広がっている。
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 初めてのイタリア、ローマ&ヴェネツィアへ。今回の旅は、まるで初めて海外旅行に行くような高揚感に満たされていて、出発前からすでに胸がドキドキ。この高まるドキドキ感は、いったいどこからくるのだろう?
 一度は行ってみたいと思っていた憧れの地。ガイドブックを開くたびに、その煌めきにクラクラしていたけれども、実際は想像していたよりもさらに美しかった。
 
 トーマス・マン(『ヴェニスに死す』)は、陸路から列車でヴェネツィアに入るのは、一つの宮殿の裏口からはいるのにひとしいと…、人はまさに、船で大海を超えて「都市の中での最も現実ばなれのしたこの都市」に到達すべきだ、と書いている。

 水上からみたこの都市のきらびやかさは、今でも幻想的で驚くべき光景だ。あっという間にヴェネツィアという舞台装置に惹き込まれ、現実と虚構が逆転し、時が別の流れに変わってしまう。こんな都市は、ここにしかない。

(実際の行路は、ローマからイタリア・ユーロスターでヴェネツィアのサンタ・ルチア駅へ。ここから水上バス2番の外回り急行でホテル近くのサン・マルコ広場に到着)
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