e0036980_2322823.jpg
東京藝術大学大学美術館で開催中(~7月7日まで)の 「夏目漱石の美術世界」展へ。

文学と美術の関係性に焦点を当てた面白い切り口の展覧会、それが国民的文豪の夏目漱石とくれば、期待に胸膨らみます。
とはいえ、漱石に初めて接したのは高校の授業での『こころ』、読んだのは取っ付きやすく面白い『坊ちゃん』『三四郎』ぐらい。『虞美人草』は昔から憧れの本でしたが、その文体に怖気をなし退却。そして展覧会前に慌てて『草枕』を読む、という何とも申し訳ない読書歴ですが、楽しみに行ってきました。

漱石自身が幼少の頃から絵画が好きで、南画や日本画に慣れ親しんでいたこと、そして英国留学で実際にヨーロッパ絵画に接して大きな影響を受けたことから、小説内にも多くの美術が登場します。こんなにも絵画から影響を受けているとは思いも寄らず、またそれだけに留まらず、同時代の絵画批評をし、自分でも文人画を描いていたことには驚きでした。

漱石が接したイギリス世紀末美術の影響がいかに大きかったか、また、絵画から受けたインスピレーションを小説に反映させていることが具体的に実感できてよかったです。
昔読んだ『坊ちゃん』にはターナー、『三四郎』にはウォーターハウスや同時代の画家黒田清輝をモデルとした人物が登場する、などいくつも美術に関するキーワードが散りばめられていたことに気づかされました…。これを機に、美術鑑賞も同時にできそうな、他の漱石文学も読んでみようかと思います。

展示は小説ごとにセクションを設けてあります。『吾輩は猫である』の装丁に始まり、『坊ちゃん』『夢十夜』『草枕』等々、小説を引用しながら関わりのある絵画を紹介しているので、分かりやすく楽しめました。展示の分量はかなりのもの、一回ではじっくりと見切れないなぁ、もう一度訪れたいとも思いました。

そしてお目当ては、琳派で(日本画の中でも)最も好きな酒井抱一による《虞美人草図屏風》。でも、なんとこれは漱石の想像上の抱一の屏風。『虞美人草』のクライマックスで登場する抱一の屏風を、現代の画家である荒井経さんが小説の描写に沿って再現したもの。
題名通り、虞美人草=ひなげしが銀屏に鮮やかに浮かび上がり、ヒロイン藤尾のように艶やかさと脆さを併せ持った美しさ。
小説では屏風が逆さに立てられ、亡くなった藤尾の傍にあったことを想像すると、まるで最後を彩るがごとく、藤尾に花が降り注ぐよう。
クライマックスにふさわしい演出で、漱石先生の美的センスは素晴らしいと、思わずうなってしまいました。

ほか、印象に残ったのは『三四郎』では「深見先生」となっている浅井忠のヴェニス風景水彩画。しっとりと落ち着いた色彩に、雰囲気のある佇まいの絵で、とても素敵でした。漱石も好意的に書いています。

展覧会は東京での開催後、静岡県立美術館へ巡回(7月13日~8月25日)となります。
[PR]