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今年の第一弾目の演奏会が、こんなにも感動してしまうものになるとは思わなかった。
聴いている途中から、目頭が熱くなるのを感じ、久々に胸が一杯に。この余韻はしばらく続きそうだ。

「晩年のヘンデル」がテーマとなった、今年のヘンデル・フェスティバル・ジャパンの演奏曲はオラトリオ《イェフタ》。ヘンデルが視力を失いつつある中で作曲されたもので、実質的には最後の舞台作品だ。
作曲家に限らず、芸術家の人生の有様と、作品自体は切り離して考えるべきだとは分かっているが、ヘンデルの最後に辿りついた終着点は確かにここにあるということを感じて、胸が熱くなった。

ヘンデルは本質的にはオペラ作曲家で、若き日よりその輝かしいオペラ作品の数々で名を馳せてきた。私はヘンデルのオペラが好きだ。
まさにバロックの精神を体現したような、カストラートの超絶とした声が君臨し、現実を飛び越えて魔法の世界までも鮮やかに作り出し、そして男女の機微を細やかに、艶めかしく表現し、聴くものをこの世のものとも思えぬ陶然の境地へ連れて行ってくれる、ヘンデルのオペラの数々…。
ヘンデルの人生は、そうした自身の作品を上演するための、世間との闘いの連続でもあった。そして最後まで、劇場での上演に命を掛けていたように思える。

この最後の作品を聴きながら、彼の作り出してきた過去の華々しいオペラからオペラ自体の衰退、そしてオラトリオへの転向、ここに至るまでの流れを、その闘いの人生を想い起こさずにはいられなかった。
時の無情な流れには逆らえないけれども、それでも「最後の仕事」の見事な成果を聴くことができたことは、本当に良かった。
この宗教的な深みのある音楽ー《ああ、主よ、御胸の何と幽庵なことか!人間の目には覆い隠されている!我々の歓びはことごとく悲しみに転じ、我々の勝利は悲嘆に変わるー夜が日に取って代わると。確実な喜びは無く、確固たる平和もないー我々人間の知るところでは、この地上では。…》(2幕合唱)
この境地は、晩年だからこそ可能な表現なのだろう。この作品が最後となったことを、本人は悔いてはいないはずだ。

もっと自分が年を経れば、ヘンデルのオペラよりもオラトリオに惹かれるようになってくるのかもしれない…。

★演奏は真摯なもので、この日のために修練を重ねてきたことがうかがえる見事なものでした。一回きりとは本当にもったいない限り。
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