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       「夜は全てお前のもの...お前が一番美しい...
          もう、いつまでも夜だ...、夜...、夜...」
              (《青ひげ公の城》終結部より 台本:ベラ・バラージュ)

 今だに「ああ、もう一度聴きたい」と余韻の残る、圧倒的な演奏で素晴らしかった《青ひげ公の城》。
 バルトークは室内楽(ヴァイオリン・ソナタなど)では何度か実演に接して感銘を受けてきたけれど、オーケストラ(オペラ)作品は初めて。映像で昔に観ているが実演で接してみると、こんなにも凄い作品だったとは目から鱗。緊張感みなぎるドラマに引き込まれ、魂が異次元に吸い込まれていくような心持ちになった。この作品、大好きだ。

 バルトークは、伝説や寓話でよく知られるこの物語を、耽美で倒錯的ともいえる愛の形に置き換え、男女の濃密な心理劇として、くっきりと鮮やかな輪郭で描いていく。その背景は、禁じられた扉を開くたびに見えてくる、どこまでも幻想的な美の世界だ。
 全編を通して現れる血の動機に感じるのは、滴る鮮血の氷のような熱さ。冷え冷えとした流れの中から、時折泡立つように浮き上がってくる色彩が、どんどん鮮やかになっていき、胸が締め付けられる。そして徐々に無色に近づき、最後は永遠の闇だ...。

 ユディットはそれまでの人生全てを投げ打ち、青ひげ公に嫁いできた。すべてを知ってはならないという青ひげ公の懇願を受け入れず、「口づけをおくれ...」という愛の求めにも応じず、「すべての扉を開けてほしい」と要求する。
 愛という名のもとに(愛しているがゆえに)、相手を支配しようとする女と、その望みを受けいれようとする男。でも、女がその望みを果たそうとするその時に、関係は逆転してしまう。男女の愛は、かくも謎めいて不可思議なもの…と、改めて感じたエンディングだった。
 
 これが演奏会形式であったのは幸いだったな、と。
 観客それぞれが自分のイマジネーションを自由に膨らませられる。この壮大で幻想的な世界を舞台で表現するのは、至難の業だと思う。

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 すっかり春爛漫の陽気。イースターを明日に控えたこの時節にふさわしい、前半のプログラム。
 メシアン《忘れられた捧げもの》は、本格的な作曲を開始した頃のもので(20代前半)、初期からカトリックの信仰に貫かれている姿勢が明確。イエスの憐みとそれを忘れてしまった人間の罪がテーマであり、イエスの「十字架」「聖体の秘跡」と人間の「原罪」のコントラストが心に響く。最後に弦で奏でられたピアニッシモ、このかすかな一筋の光線のような表現は、やはりメシアンでこそのもの。この敬虔な想いを、自分は生かされているのだという感覚を忘れないようにしたい。

 そしてドビュッシー《聖セバスティアンの殉教(交響的断章)》。これは初めて聴く曲だったので、楽しみにしていたもの。ダヌンツィオからの依頼と作詞ということもあるからだろうか、第1曲〝百合の園”開始のファンファーレがジャポニズムの感覚がかなり強かったので驚いてしまった。題材はもちろん殉教した聖セバスティアンなのだが、私の中ではプッチーニ《マダム・バタフライ》《トゥーランドット》と音楽が被ってしまった。ドビュッシーは音楽のジャポニズムの第一人者だが、ピアノ曲や《ペレアスとメリザンド》等でも、ここまでくっきりと感じたことがなかったので...。
 第2曲「法悦の踊り」から終曲「良き羊飼いキリスト」では、ドビュッシーの真骨頂ともいえる、神秘的な雰囲気に包まれて、殉教の魂も鎮まるような穏やかさ。この2曲を通して宗教的静謐さに満ちた前半から、後半のバルトークの歌劇《青ひげ公の城》へ。このバルトークが素晴らしくて!オーケストラを聴く醍醐味を存分に味合わせてくれた壮絶な名演、また改めて記したいなと。
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ジョヴァンニ・ベッリーニの描く美しすぎる聖セバスティアン。
ヴェネツィアのアカデミア美術館にて。


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 ヴァティカン絵画館の入り口。博物館には世界中から観光客が集まってくるため、ともかく凄い人出で、入場予約をしないと待ち行列に並ぶことになる(同時期に行った知人は予約を忘れ、本当に2時間並んだとのこと)。今回は朝の9時半に入り、閉館時間まで見学していたので、丸一日がかり。金曜日だったので、夜間入場(夜11時まで開館!)も考えたけれど、サン・ピエトロにも寄らないと来た意味がないので、それは諦めた...。
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 ギャラリーで目を惹いたマルコ・パルメッツァーノをパチリ。かなり大型サイズ、彼独特のタッチ。色彩の鮮やかさと聖母マリアの高貴な佇まいに(硬質な表情がいい)、天使の羽や衣装の質感もなんとも言えない色合い。背景の情景も細やかに描かれており、素敵だった。

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絵画館前通路から望むサン・ピエトロ。どこも人で一杯...。

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 今月初めまで開催されていた《ティツィアーノとヴェネツィア派展》で、昨年のヴァティカン&ヴェネツィアで出会って惹かれたマルコ・パルメッツァーノの名前を見つけたときは嬉しかった。今回の美術展では、さすがヴェネツィア派、ティツィアーノやベッリーニ、ティントレットという巨匠のほかにも、様々な画家がひしめいていて層の厚さを感じずにはいられない。
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 ここでのマルコ・パルメッツァーノは2点。どちらもヴィチェンツァのキエリカーティ宮絵画館からのもの(ヴィチェンツァ、行きたかったな...)。この作品もマルコ・パルメッツァーノらしさがよく表れているけれども、ヴェネツィアで観たものは、色彩と聖人たちの佇まいが際立って美しく、目を奪われてしまった。
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 構図はジョヴァンニ・ベッリーニの《ピエタ》に明らかに由来しているとのことで、ヴァティカンで観たその《ピエタ》を。こうしてみると、ジョヴァンニ・ベッリーニは、ただただ素晴らしい。

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 毎年のことながら、年度末から年度初めは何かと気忙しく落ち着かない日々が続く。仕事中心の日々なので致し方ないとはいえ、こちらのブログも放置状態だ。
 今年の桜はあいにく天候には恵まれず、また改まって桜見物に出掛ける余裕もなかったが、近所を車で少し回るだけでも花見が楽しめて満足。
 コンサートや美術展へ行く機会も減ったが、無理をしないでカジュアルに自宅で音楽を聴いたり、本を読んだり、近所のシネコンで映画を観たりと、できるだけ時を忘れて楽しめる機会を持つようにしたいなと。

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 最近読んだ本から。

 内澤さんの本は『身体のいいなり』が評判になった際に、初めて手に取った。私と同じように大病をされたこと、ヨガに嵌まったというところに(私が勝手に)共通点を感じて、興味深く読んだことを覚えている。身体のダイレクトな変化とともに精神面も変化していくところが、内澤さんの表現で率直に綴られていて、そのストレートさには爽快感さえ感じられるほど。女性として、こうたくましくありたいと思わせてくれる骨太な生き方がカッコいいなぁ。

 先月の新聞の読書欄に、内澤さんによる移住についての寄稿文とお勧めの本が載っていたが、この『漂うままに島に着き』は都会から地方へ移住した体験のエッセー。
「いつのまにか、地方よりも都会が、東京が、ディストピアになってしまったのだと思う」という一文に深くうなづかされた。私も一応東京生まれ、東京育ちだが、この見渡す限りのコンクリートジャングルに埋もれていると、なんと自然というものから遠く隔たってしまっているのかと、唖然とすることがある。そして時折感じる息苦しさ、人間も自然の生き物なのに。
「家の石垣に腰かけて、ヤギのカヨとカヨの息子のタメと、青い青い海を眺めていると、綺麗すぎて、自分は実はもう死んでるんじゃないかとすら思う。…楽しすぎるんだけど、これ夢じゃないの?とも」。読者として、そのシーンを想像しただけでも、まるでユートピアのよう。本当の豊かさとはいったい何を指すのだろうか?実体験に基づいたリアルな洞察が、そこにはある。

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# by marupuri23 | 2017-04-09 22:02 | | Comments(0)
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 春を感じるとはいえ、まだ寒さが抜けず桜の開花が待ち遠しい日々。今日はオール・イタリアン・プログラムのコンサートへ。イタリア文化会館が会場ということで、これ以上に嵌まる場所もないというもの。
 東京ヴィヴァルディ合奏団の演奏で、まずはヴィヴァルディのヴァイオリンコンチェルト《恋人たち》。この華やかな響きの色合いに浮かび上がるのは、やはりヴェネツィア。ああ、美しいところだったと情景がよみがえり、郷愁の念に駆られてしまう。
 
 ヴィヴァルディのあとは、どれも初めて聴く曲。
 ロッシーニ《チェロとコントラバスのための二重奏曲》は、最後に演奏されたドニゼッティ《弦楽四重奏曲 第5番(弦楽合奏版)》とともに、雰囲気がまさにオペラ。ロッシーニは低音楽器で、ユニークな構成だけれど、それでも十分にオペラ・ブッファで感じるような愉悦を感じさせてくれるのはさすが。圧倒的だったのがドニゼッティ、オペラの縮小版ともいえるほどの曲の完成度の高さに驚いてしまった。今までドニゼッティのオペラを積極的に聴いてきたとはいえないが、この弦楽四重奏曲を聴いて「あー、やはりこれは直球ど真ん中のイタリアものだ。イタリア魂を感じるなぁ。」と改めて納得。演奏がとってもよくて、大満足。

 そしてボッシ《ゴルドーニ間奏曲》、ボッケリーニ《弦楽五重奏曲「マドリードの夜の音楽」》。
 《ゴルドーニ間奏曲》はその名の通り、ヴェネツィアの劇作家ゴルドーニから。戯曲を想い起させ、まるで音楽による喜劇のよう。ドタバタ感や皮肉めいた言い回しが溢れ出るかのごとくで、楽しい気分が盛り上がること!ボッシは19世紀後半なので、書法もモダン。気に入ったので、全曲版でまた聴きたいな。ボッケリーニは、こんなに楽しい曲も作っていたんだと。渋い曲のイメージがあるので、新鮮だった。

 音楽だけでも体全体でイタリアを感じられる、今回のプログラム。イタリアの情熱に包まれて、充実感たっぷりだった。

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休憩時にいただいたサンドウィッチ&サブレ。美味しかった♪

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―ヴェニスをその街にふさわしく愛する方法はただひとつ、その街にしばしば触れさせる機会を与えることであり、そのためにはぐずぐずとその街に居据わって長居し、どこかに飛んで行って、また舞い戻ってくることだ―『郷愁のイタリア』ヘンリー・ジェイムズ著/千葉雄一郎訳
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 ヘンリー・ジェイムズは私の好きな作家。私も実際にここを訪れて、彼が愛したヴェネツィアの面影が、今でもそのままに感じられるのは嬉しかった。ヴェネツィアでは、夜も音楽鑑賞のため出歩いていたので、必然的に3日間とも22時過ぎまで街中を横断していたことになる。
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 こうしたメインストリートは夜でも艶やかで、雰囲気を十分に味わうことができるのだが、私の泊まっていた宿はサン・マルコ広場の裏手にあり、迷いやすい場所。夜になると、細い路地が入り組んでいるため、位置が分かりにくくなり、人っ子一人いない薄暗い路地(しかも一人がやっと通れるぐらいの狭さ)をドキドキしながら駆け抜けることが数回あった。
 でも、そうした迷宮的なところこそ、今まさにヴェネツィアにいるのだということを実感した瞬間でもあった。ボーッとオレンジのライトで照らされている誰もいない狭い路地と、小さな橋のかかったいくつかの運河を超えて宿に戻るのだ。
 ヘンリー・ジェイムズの言う通りに、いつか、あの迷宮へまた舞い戻ってきたい。

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 今回のイタリアの旅では、美しき女性の聖人にたくさん出会うことができたのだが、ヴェネツィア・アカデミア美術館でのジョヴァンニ・ベッリーニの女性像には、一目で心を奪われてしまった。数百年前とはとても思えない、最近描かれたような新鮮さには、驚きすら感じる。
 この《聖会話》では聖カタリナの真っ直ぐな瞳と、乙女の初々しいさを感じさせる描写にうっとり。
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そして聖母子。こちらはまだ初期ルネサンスの硬質さが感じられるところがいいなと。
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 ここ最近はバロック&古典派中心のレッスンなので、たまには息抜きで系統の違う小曲を弾きたい…と思ってコルンゴルト《死の都》から大好きな「リュートの歌」。
 「サラッと弾きたい」…のつもりだったのに、結構難度が高いことが分かり、適当にごまかしながら練習中。先生に聴いてもらったが、この曲を聴いたことがない先生は「??」と感想も言えない感じで、コルンゴルトにも先生にも申し訳なく…。自分的にはうっとりしているのけれど、少しでも人様に伝わるように頑張りたい。
 先月にウィーン・フォルクスオーパーでは《ヘリアーネの奇跡》が上演(演奏会形式)。実際に聴いてみたいので、羨ましいなと。CDで聴いたときは作曲当時のコルンゴルトの心情と重なるように思え、胸が詰まった。時代に翻弄されながらも、その時代からこそ作り得た音楽でもあるのだろう、と。

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サンタ・マリア・デラ・サルーテ聖堂前から見るカナル・グランデの眺め
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 ヘンリー・ジェイムズは、この聖堂を「サロンの敷居に立つすばらしい淑女のような姿」「サルーテ教会はかつて画家たちが語ったよりも一層豊かであり穏やかで、扉口も落ち着いて見えるのだが、丸屋根に渦巻型の装飾があり、扇型の控え壁と彫像群がはなやかな王冠をなしていて、広い階段がさながらローブの裾のように水面に達している。この絶世の美女のような風格…」と褒め称えている。
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 中の空間は思ったよりも広々。この主祭壇はロンゲーナが構想し、ジュスト・ル・クールが制作したもの。ほか、ティツィアーノやティントレットの名画もあるが、今回は観れず残念。

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