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新国立劇場《フィレンツェの悲劇》&《ジャンニ・スキッキ》~H31.4.7

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昨年7月に訪れたフィレンツェ
夏の空に大聖堂と鐘楼が眩しい
 
 フィレンツェを舞台としたオペラ2作品の公演へ。
 ツェムリンスキー作曲《フィレンツェの悲劇》&プッチーニ作曲《ジャンニ・スキッキ》のダブルビル。悲劇と喜劇という組み合わせの妙を十分に味わい、久々にオペラの公演を楽しんだ。
 何より、演出が奇をてらわないオーソドックスさでいい。粟國さんの演出は、昨年のフェッラーリ作曲《イル・カンピエッロ》(ゴルドーニ原作)でも、在りし日のヴェネツィアに居るかのごとき鮮やかさで印象に残っているが、今回も素敵だった。
 今回の作品のように、一般的にあまり馴染みのない作品については、やはり作品世界への理解を助ける「分かりやすさ」が求められると思うし、それが観客への親切な対応ではなかろうか。
 そこを押さえたうえで《ジャンニ・スキッキ》は喜劇にふさわしい遊び心の効いた演出で、プッチーニ節の流麗なメロディーと進化した和声の相乗効果といったら!幸福感が溢れ出る舞台とはこのこと。
 演出では台詞に沿ってフィレンツェの名所&美術家等が登場、そしてもちろんダンテと『神曲』そのものも!この『神曲』の使い方には舌を巻いた。まさに地獄から登場のジャンニ・スキッキに、お見事!
 「フィレンツェよ、さらば」とジャンニ・スキッキがうたう箇所は、否が応でもフィレンツェから追放されたダンテの悲哀が感じられて、切なくなる。
 そして、「フィレンツェは楽園のよう…」と、うたわれるフィレンツェ=ダンテ賛歌に、こちらも暖かな愛情に包まれていく感じ。
 だって《ジャンニ・スキッキ》はプッチーニの天国篇なのだから、満ち足りた気持ちになるのも当然。ただただ、素晴らしい。
 

 《フィレンツェの悲劇》は初めて聴いたが、すぐに「あ、これ好き」と。
 特にオーケストラが良くて、以前にやはり沼尻さんの指揮で聴いたコルンゴルト《死の都》を想い出した、というのは音楽がシュトラウスっぽいだけではなく、コルンゴルトにも似ている…と感じたからだが、それも当然、プログラムを読んだらツェムリンスキーはコルンゴルトに作曲を教えた先生だった…。好きと思うのも当然。
 この戯曲には、こうした後期ロマン派の音楽がピッタリ嵌まる。私にとっては理想的。

 原作はオスカー・ワイルド。ワイルドが釈放後にナポリで手を入れ完成させようとしていた戯曲。ナポリの太陽の元でないと書けないと…。
 古典の専門家でもあったワイルドの台詞は華麗でデカダンス。イタリアの優雅な古都の名も散りばめられていて、なかにはプッチーニの故郷ルッカの名も。
 ワイルドの人生自体が華麗さと醜聞に満ちたドラマチックなものだが、《フィレンツェの悲劇》には生涯の恋人ダグラスとその父との関係が投影されているような気がしてしまう。彼の内面と美学を吐露したような、倒錯した愛の関係性(ワイルドとダグラスとの関係も非常に複雑だった)を感じさせるこの作品の背景についても、プログラム等で掘り下げた解説があると嬉しかった。

 ワイルドが投獄されていた時に読んでいたのがダンテ『神曲』。特に「地獄篇」に惹かれていたそう。これは《ジャンニ・スキッキ》=ダンテ『神曲』繋がりで、読み替え演出にも使える(もう使われていたりして…)ネタでもあるなぁと。

by marupuri23 | 2019-04-08 23:17 | opera | Comments(0)