パリ・ノートルダム大聖堂の楽長カンプラによるオペラ=バレ
1697年パレ・ロワイヤルで初演
指揮はマラン・マレ、演奏にはダングルベールが参加
先日のコンサートでの予習として全曲盤を。2017年にヴェルサイユで録音されたもの。リュリとラモーの間の世代となるカンプラの作品を、こうした最新の演奏で聴けるのは喜び。
指揮のデランはクラヴサン奏者。自身の古楽器オーケストラであるこのレ・ヌーヴォー・キャラクテールを立ち上げるまで、錚々たるチェンバロ奏者の薫陶を受けており、それもさもありなん、と納得の鮮やかな演奏。彼の持ち味なのだろうか、切れ味の鋭い、爽快感のあるスタイルだ。
またCDジャケットがブーシェ『美の女神の勝利』で、内容とマッチしているのがいい(ブーシェはカンプラより一世代ほど後)。プロローグでは、美の女神と不和の女神がお互いの優位について言い争うのだが、最後はもちろん美の女神=愛の神の勝利と決まっている。
プロローグの最後に、皆に疑念や恐怖を蔓延させようとする不和の女神に向かって、美の女神が「アモール(愛の神)がフランスを支配するのをみるがよい」と宣言。そしてまた序曲が繰り返され(当時はこの間に急いで舞台転換)、本題に入っていくというお馴染みパターンが最高。このバロックオペラに付きもののプロローグが大好きだ。これがカットされていると、がっかり…。
本題=優雅なヨーロッパなので、舞台はフランス、スペイン、イタリア(ヴェネツィア)、そしてトルコ。それぞれ4か国の恋愛模様がお国柄を反映した音楽&台本で描かれていく。フランスでは羊飼いのカップルという、いかにもこの時代の牧歌劇らしさ。エレガント極まりない。スペインは情念の籠もった重々しいセレナーデと情熱的なバレ。イタリアのヴェネツィアでは、劇場に仮面&仮装で登場するのはお約束、カーニバル的で軽やかなお祭り音楽。トルコはハーレム&行進曲(モーツァルトのトルコ行進曲にも通じるような)、最後は皇帝の偉大さを讃える。
ラモー《優雅なインドの国々》に、このスタイルが踏襲されているし、お国柄さまざまという点では、ゴルドーニの『抜け目のない未亡人』(求婚者がイギリス、フランス、スペイン、イタリア人)と共通する部分が想い起されて楽しい。
時代を経ても、お国柄のイメージがあまり変化しておらず、音楽にも反映されているのが、本当に楽しい。最後は不和の女神が逃げ出して幕。
モンテヴェルディのオペラでも、美徳や幸運の女神ですら幼子の姿であるアモーレに屈するのだから、まあ無敵である。