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 東劇でMETライブビューイング《トゥーランドット》を鑑賞後、近くの築地にあるイタリアン「パラディ―ゾ」へ。イタリア・オペラのあとはイタリアンで〆るという王道コース。
 店の表札がいい感じ。リモーネの装飾が南国らしいアルファベートのマヨルカ焼き、カプリ島ではあちこちで売られていたが、結構いいお値段がするので(1つ5€ぐらい)、あっさり諦めたのだった…。
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 前菜盛り合わせでは、海藻入りゼッポレが登場で、思わず「懐かしい~」と。ふわふわ、サクサクで美味しい。この7月にナポリ・トレド通りの揚げ物屋「Passsione di Sofl」でいただいたのを思い出す。6€ぐらいで山盛りのフリットがいただけて、とても一人では食べきれず…。小魚の丸ごと揚げが特に香ばしくって、良かったなと。
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 パスタ料理はウニとチェリートマトのものを。極太のスパゲッティに濃厚なウニが絡んで、ワインが進んでしまう。あまり飲めないのだが、せっかくなのでサルデーニャの赤ワインを。…サルデーニャ産、初めていただくような。
 食前酒はベルモットソーダで、この香りにナポリのお菓子「ババ」が思い出されて、また食べたくなってしまう(メニューにあったので、デザートにいただいたの)。
 店内にはナポリのキアイア通り(だと思う)やスペイン地区の写真も。イタリア感満載の店内で、友人と「《トゥーランドット》の結末はどうあるべきか」とか、南イタリアの美味しいもの話とか、尽きることのないおしゃべりで楽しいひと時だった。


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 終演後、鑑賞を共にした友人が「あのように人を愛することができればいいわね…」と溜息交じりに語っていたが、そう、このオペラは自らの全てを掛け、その恋が自らの破滅へと導くものであろうとも、それを承知で恋を貫き通す騎士デ・グリュ―の物語である。デ・グリュ―のひたむきな想いに答えるマノンの想いが重なるとき、プッチーニの才能の炎も燃え立つさまが手に取るように伝わり、胸をかき乱すような切ない音楽が、こちらの涙を誘ってやまない。
 その音楽は、プッチ―二が《マノン・レスコー》を作る際に宣言したという有名な台詞―「マスネが白粉やミヌエットでフランス人風にやるなら、僕はイタリア人らしく激しい情熱で作り上げる」—その通りに「激しい情熱」がそのままメロディーとなって流れ込んでいくような作品である。

 その情熱は作品にもちろん反映されているのだが、以前聴いたMETのルイージ指揮のものは、理性的で整然とした印象(もちろん盛り上がるツボは押さえているのだが)で、こうしたアプローチもあるだろうが、今回のオーケストラはざらつきはあるものの、「情熱」を十分に伝えてくれる演奏だった。何よりデ・グリューを歌ったクンデが素晴らしく、やはり3幕から涙が溢れてきて、4幕では泣きっぱなしだった。叶えられない恋を、自分の身に置き換えてしまうからなのだろう。恋は叶えられなかったからこそ、美しいといえるのかもしれないが。

 キアラ・ムーティによる演出は、1幕から砂漠を登場させ、写実的というよりは心理描写の強いもの。二幕でマノン以外の人の動きが止まってしまう場面が秀逸。終幕、砂漠で死に向かうマノンが過去を振り返っているような作りだ。色彩も淡く、砂漠の蜃気楼めいた儚さがあった。
 そういえば、先日の講演によればワーグナーからの感化が最も現れているのが、この作品とのこと。プッチーニはこの後ワーグナーの手法を乗り越え、さらに彼独自の世界へと進むことになる。


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 「プッチーニの《トゥーランドット》はイタリア・オペラの到達点であり、そこから先へは誰も進むことができなかった」という納得の着地点で講演を締め括ったヴェネツィ氏は1990年生まれの新鋭指揮者。
 プッチーニの作品はオペラ劇場でのレパートリーには欠かせないものであり、また上演数が多いにも関わらず、愛好家や一般向けの講演会及びレクチャー等で取り上げられる機会が少ないのではないだろうか。ヴェルディやベルカントオペラ、バロックオペラなど、他のイタリア・オペラに比べ、日本においてはアカデミックには語られていないような印象がある。が、今回の講演はさすが指揮者である。プッチーニの作曲技法を中心に据えた内容で(とはいっても一般向けなので、専門用語は控えめ)、まさにプッチーニがイタリア・オペラの到達点であることが理論的に述べられていて、非常に勉強になった。
 
 具体的に「フォーム」「メロディー」「ライトモチーフ」「ハーモニー」と項目に分けて説明がされたが、《トスカ》の自筆スコアには「何事にも負けずに、〝旋律”、旋律のオペラを作ること」というプッチーニのメモが残されているそうである。旋律が常にはっきり表れるというのはイタリア的な特徴で、これはトスカーナ地方(カッチーニの名前が出てきたので「新しい音楽」=モノディ様式、フィレンツェのことだろうか、プッチーニはルッカ出身)で生まれた伝統的な形式に沿っているものとのこと。伝統の枠を壊すことなく、ドイツ、フランスの形式を融合させ、「”ヨーロッパ”のオペラ」と呼べるようなところまで持ってきたのがプッチーニで、結果イタリア・オペラを国際的な場へ引き出したのだった。

 ワーグナーの影響と対比(ライトモチーフの扱い方、半音階の用い方)なども詳しい話があり、話せばきりがないのだが、遺作《トゥーランドット》(私は《マノン・レスコー》と同じくらい好き)は表現主義的、特にアリア《この宮殿の中で》は無調へとーギリギリ調性を保つ限界までいってしまったということで、これではなかなか最後が決まらなかったであろうと、うなづけてしまう。
 いったい、プッチーニはどのようにして《トゥーランドット》を終わらせようとしたのだろうか。プッチーニのスケッチと、アルファーノの付け足し部分はほとんど異なっているそうだが、これは永遠の謎である。

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 ラフマニノフは10代の頃から好きな作曲家の一人。
 いつかピアノ曲を弾きたいと全音ピアノピースで数曲揃えていたものの、なかなか機会がなく現在に至っていたが、先日ラフマニノフのピアノ・ソロ曲のレクチャーを聴講することができて、大いに刺激を受けた(レクチャー、とても良かった!)。
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 代表曲の一つである《前奏曲 嬰ハ短調 Op.3-2》、通称「鐘」についても、詳細な解説をしていただき、では早速弾かねばと実家からゴソゴソと楽譜を取り出してきたわけである。この曲は19歳の時に作曲されたもので《幻想小品集Op.3》(デビュー曲)の中の2曲目。モスクワで初演され、恩師アレンスキーに献呈されている。講師の解説によると、ラフマニノフの全人生を支えた曲でもある。「鐘」(故郷の教会の鐘)が彼の中では、作曲を行う上でのシンボルのようなもので、通奏低音のように耳の奥でずっと流れていたのだろうと思いを馳せながら、音をさらっている。
 他、初期の中ではモスクワ初演《サロン小品集Op.10》の《ノクターン イ短調》が気に入った。次はこれが弾いてみたい。

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 宝塚大劇場にて《エリザベート》鑑賞のため、前日に宝塚入り。伊丹空港から30分の距離なので飛行機を利用したが、やっぱり楽だなぁと。宿については有馬温泉も考えたけれど、海外で鑑賞する場合と同じく、劇場近くに泊まる(ホテル若水)ことにした。
 部屋の大きな窓から武庫川を挟み劇場が見えて、気分が盛り上がる。
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 いわゆる「旅館」に泊まり、お部屋で夕食をいただくのは久し振り。今回は親孝行ということで、母と一緒。宝塚歌劇はもちろん、宿でのひと時も楽しんでくれたようで良かった。街歩きや温泉も満喫。
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 クラシック&ジャズのピアニスト2人によるバッハの「ジャズ」演奏会へ。
 即興の要素が強くテンポが一定のバロック音楽は、バッハのみならずジャズに近いと思う。特にバッハのフーガなんて、もうジャズそのものだな、と。一つのテーマが様々な形を取って変容していくさまに、この先どうなるのかとワクワクする。「おっ、こうくるのか」と予想しない方向に展開していくと、そこで感心したり、驚いたり…。でも型は外さず、最後には円を描くようにキチンと収まってしまうのはさすがだ。
 ジャズだと奏者同士で丁々発止の火花が飛ぶ応酬が聴きどころだったりするけれど、この演奏会のコンセプトは「バッハの音楽との対話」ということから、お互いに寄り添い、じっくりと議論を交わすようなやり取りが印象的だった。
 とはいっても、ジャズの遊び心に満ちた演奏で、観客は皆楽しくリラックスして聴けたのではないだろうか。バッハというと居住まいを正して堅苦しく傾聴しなければならないイメージがあるが、今回はジャズとの融合で、メロディーの美しさを引き立たせるアレンジにより、バッハの魅力を存分に伝えてくれた。ジャズ化しても違和感が無いのがバッハで、私にとっても新鮮な体験だった。
 
 有名どころではゴルトベルクやG線上のアリア、アンナ・マグダレーナのメヌエット、そして「主よ人の望みの喜びよ」。
 平均律1巻からは3曲のプレリュードが登場したが、プログラムにないフーガまで続けて行ってしまうことがあり、アレンジがまあエキサイティング!ここではバッハ弾きと呼ばれるバーラミの腕が冴えわたり、「やっばりフーガはカッコいい!」となる。
 プレリュードは通奏低音化してドビュッシー風、ロマン派風にと変容、フルート・ソナタ「シチリアーノ」と無伴奏ヴァイオリン・パルティータ「サラバンド」では、楽器の特性でもある息の長い旋律がロマンティックなアレンジによって歌われ、うっとり…。
 どのアレンジも、今生まれたばかりのような躍動感に満ち、こちらの気持ちもすっかりリフレッシュ。
 こんなバッハなら大歓迎だ。

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 10回目の再演《エリザベート》鑑賞前日に、宝塚大劇場内「宝塚歌劇の殿堂」の企画展「エリザベート展」へ。
 入口には歴代トート(Der Tod)=トップスターが勢揃い。同じ《エリザベート》でもマンネリ感が無く、それぞれのトップの個性を打ち出すべく造り込んでいるのはさすが。トップスターが演じるので、両性有具的な妖艶さが際立つのが、宝塚の死神(トート)。
 「死」の擬人化が登場するミュージカルは、他にもブロードウェイ産の《蜘蛛女のキス》が知られており、これも大好きな作品だが、こちらは「死」が女性で、囚人である男性の主人公を誘うという設定になっている。「死」がキャラクターとして登場してくる以上、悲劇的なものとならざるを得ないが、その暗さがあってもなおこれだけの人気を誇るというのは、人間が本能的に抱いている「エロス(エリザベート)とタナトス(トート)」に訴えかけてくるからだろう。
 進化論によれば、「死」無くしての進化は有り得ない、つまり進化するためには「死」が必須条件という。だから人も生物である以上、「死」に惹かれるというのも肯ける話ではある。
 とはいっても、このミュージカルはブロードウェイではウケないそうなので、ハリウッド映画とヨーロッパ映画の違いとでもいうような感じだろうか(どちらも好きだけれど)。
 他、展示では衣装がメイン。宝塚の舞台装置は大掛かりではなく、トップスター始めトップ娘役らを引き立たせる衣装に力を入れるのは当然。ハイブランドのオートクチュールも真っ青の凄い手仕事振りに絶句…。豪華絢爛なぞとっくに突き抜けて、これぞ舞台衣装という感じ。ファンタジー満載で、舞台はまさに夢の世界なのだと実感。
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 衣装の一つ、ジャケットの右胸部分。スパンコールびっしりで、こうした衣装が次から次に登場。オペラでも衣装は大事なポイントだが、これを見たあとでは、オペラで観る華やかな衣装も地味に思えてしまう…。

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 私の好きな(…もう熱愛に近い)ミュージカル《エリザベート》鑑賞へ。宝塚歌劇版は10回目の再演となり、私は4年振りの鑑賞だが、今回初めて本場兵庫の宝塚大劇場まで遠征。1992年ウィーン生まれのこのミュージカルは、これまで世界10か国以上で公演されており、ドイツ語ミュージカルの中では最も成功した作品となっている。宝塚歌劇団にとっても「昭和の宝は《ベルサイユのばら》、平成の宝は《エリザベート》」との談。このヒットのおかげで、皇妃エリザベート自身もすっかりメジャーな存在になった。
 この《エリザベート》との出会いは20年ほど前になるのではないだろうか、都内のCDショップでたまたまウィーンの初演キャストによる公演のCDが目に留まり聴いてみたところ、ストーリーはもちろん、音楽も素晴らしいのに感嘆(特にエリザベートが歌う《Ich gehoer nur mir》に共感)。実際の舞台を観たこともないのに、すっかり夢中になってしまった。ちょうど、宝塚が初演してヒットしていた時だったのではないかと思う。ウィーン初演版では、オペラでも著名なハリー・クプファーが演出を手掛けていると聞き、わあ、いいなぁと…。
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 ありがたいことに、日本では《エリザベート》が宝塚版、東宝版、そしてウィーンの引越し公演までと上演が盛ん。私も4,5回は観ているのではないかと思う。何度観ても飽きないし、何度でも観たいと思う魅力がある。
 それぞれの版に異なった魅力があるが、私にとってはウィーン版が一番。ドイツ語の響きが美しく、歌詞も詩的。日本語と比べて情報量が多いので、ストーリーに深みが出て、何よりエリザベートの人物像が生々しく立ち上がってくる感覚がある。しいことに、この日は作曲のシルヴェスター・リーヴァイ氏がおみえになって大喝采。私も直接「《エリザベート》を創っていただき、ありがとうございます、これまで何度聴いたかわかりません」とお礼を言いたかったぐらい。
 《エリザベート》の魅力を語ればきりがないのだが、ハプスブルク帝国の滅亡と「死(Der Tod)」の擬人化であるエリザベートの誘惑者が重なっているところが秀逸。
 ウィーンと「死」は、いつも背中合わせである。シューベルトの《死と乙女》や、コルンゴルト《死の都》でも描かれるように…。

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