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 2年振りとなるセンペの公演へ(前回はアンタイと一緒の2台チェンバロによるラモー)。
 プログラムはカルト・ブランシュ=白紙ということで、センペが自由に選び、こちらは実際に聴くまで何が演奏されるのか分からないまま。これもラ・フォル・ジュルネならではの粋な計らい。先入観を持たずに音楽と向き合える感覚がいい。

 演奏が始まると、弾かれているものがフランスのバロックであるということはすぐに伝わってくる。ドイツでもイタリアでもイギリスでもない、クラシック音楽の中で「フランス的」なものを一番感じさせてくれるのが、この時代の音楽だなといつも思う。フランス語の感覚をそのまま音楽に移し替えたよう…、典雅、優美という感覚を音楽にしたら、きっとこうなる。
 音自体は重い印象、ジャーマンの音という感じで、装飾音も重厚な、落ち着きのあるフレンチ・バロック・プログラムだった。これはアンコールを含めルイ・クープラン、ダングルベール、そしてフローベルガーによる「トンボ―」(追悼曲)が演奏されたことにもよるのだろう。「トンボ―」はバロックにおけるフランスの独特の分野で、楽器との相性もぴったり。これにはセンペのプログラム構成のセンスに感心。

 ダングルベールはルセのCDを持っていて、自分でも10年ほど前にメヌエットをピアノで弾いた。フランスものは装飾音が命なので、大変だった記憶がある。ピアノではやはり厳しいなと。メロディーというより装飾音のニュアンスで聴かせるので、雰囲気を出すのが本当に難しい…。これはフランスのバロック・オペラにも共通する事項で、歌い手さんが見事に装飾音を入れているのにうっとりするのだが、やはり随所に入れるという様式感に腰が抜ける。イタリア・バロックでのカストラートの技巧とは別物だ。

 そしてルイ・クープランのシャコンヌとパッサカリアに気分が高揚、永遠に続くかのような命の拍動があり、バッハのパッサカリアと同じだ。螺旋状に上昇するエネルギーを感じる。
 舞曲は安定したリズムを伴う―「リズムをずっと持続させるということは、本来ものすごくエネルギーを感じさせて、人間の意識を高揚、覚醒させることです。体内エネルギーを高めて、変な薬をやるよりもそれだけでいい気持ちになれるのです。…放っておいたらリズムは崩れていくはずなのです。それをすごいエネルギーで、大きい音で、グルーブするリズムでずーっとやっているということは、それ自体がものすごくエントロピーに抵抗しているのです。…それは音楽の本質で、エントロピーに抵抗しているということは、まさに生物が生きるということであり、時間を作り出しているということです。リズムというのはその象徴なのです」(『音楽と数学の交差』著者:桜井進×坂口博樹より)

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 イタリアの女優ヴァレリア・ゴリーノが監督として撮った2作目の作品。ちょうど先月、彼女の主演した《エマの瞳》(ソルディーノ監督)を観たばかり。視覚障がい者の女性を凛々しく演じていたのが記憶に新しいが、監督としての才能も評価されているそうで(カンヌ映画祭のある視点部門に選出)この機会に鑑賞。

 物語の舞台はローマ。主人公マッテオは有能なビジネスマンで、優雅な独身貴族(ゲイ)として友人達と享楽的な余暇を楽しむ日々だが、教師の兄が病に倒れ、僅かな命であるという連絡が入る。人生の方向性がまるで違うゆえ疎遠になっていた兄弟だが、家族として兄を救おうとするマッテオの気持ちに、兄エットレも次第に態度を軟化させていく。そこにエットレの家族(妻と子供)と愛人も絡んで…という人間ドラマ。

 印象としては、フランソワーズ・サガンの小説のよう。私がサガンのファンなので、そうイメージしてしまうのだろうが、監督の「中心となるテーマは愛されること、愛の力だ」という言葉にも共通点が感じられるなぁと。サガンは「自分の知らないことは書くことができない」と、つまり知っていることを語ると述べていたかと思うが、この映画からは女優としてキャリアを築いてきたゴリーノのセンスと経験が伝わってくる。何より映像自体がシャープで、洗練されている。独特のセンスというよりも、バランスが取れていてお洒落、マッテオの住むペントハウス(独身なのに凄い広さ)は、最先端のイタリアンモダンなインテリアで仰天レベル。これだけでも一見の価値あり…。
 
 愛の形は様々で、家族に対するそれは特に複雑なものである。相手のために尽くそうとしていても、それは自分を救うためだったりもする。憐憫ではなくて相手を思いやることの難しさ、想いを汲み取ることの大切さが伝わってくる映画だった。

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 今年のラ・フォル・ジュルネはスキップ・センペのクラヴサン演奏によるフランス・バロックに始まり、ミシェル・ダルベルト(ピアノ)&オリヴィエ・シャルリエ(ヴァイオリン)&モディリアーニ弦楽四重奏団によるショーソンのコンセールに終わった、計6公演。
 室内楽&古楽好きにとっては、3日でこれだけまとめて聴けることができたのが嬉しい。
 私的ヒットは別所哲也の語り&アンサンブル・マスクによる《グランド・ツアー:ヨーロッパをめぐる旅》。エンタメ精神満載でとても楽しかった。

 会場で出会った知人(彼女は1日3公演ずつ聴いたとか)によると、ディーヴァ・オペラによるモーツァルトのオペラ《後宮からの逃走》が凄くよかったそう。普段オペラは観ない彼女だが、今回は衣装や振付がしっかりしていて、容易に物語の内容をつかめたとか(もちろん演奏もよかったと)。
 オペラ好きとしては来年も是非、と思ったが、テーマはベートーヴェンだそうで…(となると《フィデリオ》しかない)。ベートーヴェンならピアノ曲や弦楽四重奏など室内楽メインで聴きたい。やっぱり好みが偏ってしまうが、来年も楽しみ。

 ともかく、来年も開催されるとのことで一安心。聴きに行く、行かないは別として、こうした催しは長く続いてほしいと願っている。