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 カルパッチョを見るのは楽しい。ヴィヴァルディを聴いたサン・ヴィダル教会では祭壇画を、そしてここヴァネツィアのアカデミア美術館には《聖ウルスラ伝》の連作が並ぶ展示室があり、それは見応えがある。
 カルパッチョの醍醐味は、なんといっても細部の描写にある。特に人物については、一人ひとりに実際のモデルがいたのではないかと思わせるほどのリアリティで、当時の風俗が手に取るように伝わってくるのが面白い。
 今回、アカデミア美術館を訪れた際には、午後の遅い時間帯だったためかガラ空きで、カルパッチョも独り占め。
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 「カルパッチョ」という前菜でお馴染みのメニューがあるが、もともとは生の牛肉を薄切りにしたものだそう。カルパッチョの絵画の赤を思い起こさせるところから名付けられたそうだが、その絵を見ると、確かに赤が特徴的なアクセントとなっていることを実感。赤でも様々な色合いがあり、光の当たり具合によって微妙に色彩を使い分けるところなどは、さすがに素晴らしいなと。
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 《聖ウルスラ伝》の「イングランド使節の到着」から。青年の肩に届くほどの金髪が陽に輝いて、鮮やかだ。その衣装や胸飾りもお洒落、タイツが左右色違いなのはもちろんで、流行最先端ではないかと(^^;) もっと派手な装い(青年の華麗な装いのバリエーション)も、他の絵には描かれていて、「へぇ~こんなの着ていたのか」と思わず見入ってしまう。
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 こちらも金髪青年。背中を向けているポーズが、なんとも粋ではないか。この帽子のデザインといったら!正面から見たらどんな青年かなぁと興味をそそられる。カルパッチョのセンスが生き生きと伝わってくる名画だ。

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 イタリアのプーリア(プッリャ)州出身の方から、「都内(広尾)でプーリア料理を食べられるレストランがあるよ。現地の人にも結構評判がいい。」との情報をいただき、母と二人でアンティキサポーリへ(お互い同士で遅めの誕生日祝い)。
 プーリア州といえば、世界遺産である「とんがり屋根」のアルベロベッロぐらいしか思い浮かばず(すみません)、州としては細長くて結構広いような感じだったなぁと…。そうそう、オレッキエッテ(耳たぶ型パスタ)がプーリア産と聞いていて、美味しそうと思っていたのだった。
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 まず驚いたのが、前菜が盛り合わせ的なものではなく、何種類も一皿ずつ出てくる!私たちが選んだコースでは5種類。ナスのスフォルマート、カポコッロ(豚のうなじのハム)の玉ねぎピクルス添え、ブッラータ(チーズ)、等々...。ブッラータの味はモッツラレッラと似ているけれど、もっと柔らかくってトロトロ。ミルクっぽさもあまり無くてさっぱり、食感を楽しむものかな。
 プリモは2種類のお薦めパスタ。残念ながらオレッキエッテではなかったけれど、美味しい。セコンドはCavallo=馬肉のグリルとサルシッチャ(ソーセージ)。馬肉はクセが全くなくて柔らかく、付け合わせのひよこ豆と相性ピッタリで満足。
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 一番印象的だったのが、食後酒。リモンチェッロ2種類にアマーロ。度数は20~30!で、当然私には無理。でも、このアマーロ(ハーブのリキュールで養命酒的なもの)の味が、とても気に入ってしまった。販売もしているそうで、ボトルの案内をいただいたが、とてもこの量は飲みきれまいと断念…。リキュールに合わせるお茶菓子(ではなくお酒菓子)も、さっぱりとして口直しには最適。
 コストパフォーマンスも良く、HPで見るより実際の方が断然印象がいい。今度は友人を誘って来たいお店。

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 カルパッチョ《サン・ヴィダルの栄光》を眺めつつ(リュートを弾く小さな天使が愛らしい)、この教会で聴いたヴェネツィア室内合奏団は本当に素晴らしかった。求めたCD(ヴィヴァルディのコンチェルト)を聴くと、あの一時が甦ってきて、また幸せな心持ちになる。
 配られたパンフレットに、教会の歴史が紹介されていた。1084年にヴィターレ・ファリエール元首(クーデターを企て1355年に斬首刑にされたマリーノ・ファリエール元首のご先祖かな?この方の名が付いたドニゼッティのオペラがある)によって設立されたとのこと。彼の守護聖人(サン・ヴィダル)に捧げられているそうだ。
 ヴェネツィアは歴史があり、芸術の都として名を馳せただけあって、一つの事柄から様々な話題が芋づる式に出てきて面白いのだが、パンフレットによれば、ヴェネツィア出身の作曲家ガルッピがこの教会に埋葬されたそうだ。なんと、びっくり。そして所縁の場所であることにジーンときてしまった。
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 ガルッピは当時大変有名な作曲家だった。同郷の劇作家ゴルドーニと組んだオペラ・ブッファは大ヒット、ロンドンやロシアに招かれ、サン・マルコ寺院の楽長にも就任している。
 曲を聴くと、そこには彼の個性(ガルッピ節)が確かに感じられ、魅力的だ。《田舎の哲学者》の生き生きとした、弾むような旋律にはワクワクするし、チェンバロ奏者としての評判が高かっただけに、鍵盤曲やトリオ・ソナタなども味わいがある。残念ながら彼が力を注いだ教会音楽は聴いたことがないけれど…。最後のオラトリオ《トビアの帰還》(題名からして魅力的ではないか)とか聴いてみたいもの。もっと彼の曲、特にオペラを聴く機会が増えれば、と思う。

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 ヴェネツィア2日目の夜は、21時からサン・ヴィダル教会でのコンサート。
 ヴェネツィアに来たからには(という台詞が多くなってしまうが)、やはりヴェネツィア音楽の代名詞であるヴィヴァルディを聴きたい。ということで、ヴェネツィア室内合奏団(Interpreti Veneziani)によるヴィヴァルディ4曲&バッハ1曲を聴いたのだが、こんなに素晴らしいヴィヴァルディを聴けるとは思わず、もう腰が抜けてしまった。
 これまでに、様々なアンサンブルで(ベルリン・バロック・ゾリステンやヴェニス・バロック、ベルリン古楽アカデミー、エウローパ・ガランテ、等々)ヴィヴァルディを聴いてきたけれど、私にとって、これこそ最高のヴィヴァルディ!なにしろ、ここで毎日のようにヴィヴァルディを弾いているのだ。上手くないわけがない、それになんといっても「お国もの」だ。音色に華と艶やかさがあって、まさにヴェネツィアそのものの印象だ。
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 失礼ながら、演奏を聴く前までは、観光客を対象とした、緩い感じなのかなと想像していたのだが、始まってみるともうビックリ。周りの観客も私と同じような「観光気分」の方が多かったと思うが、演奏が始まってみると、みなぎる音楽の集中度と迫力に、どうやら「これは真剣に聴かないといけない」と感じるようで(ちょっと声を出すと係員が注意に飛んでくる)、小さいお子さんを連れてきた方などは、少々気の毒なだぁと思ってしまったが…。
 アンサンブルとしてのバランスもよく、特に要のチェロが情熱溢れる弾きっぷりで(魂籠めて…という表現がぴったり)、演奏をグイグイとリード。このチェロのお兄さん(アマディオさん)に、すっかり魅了されてしまった。もちろん、他のメンバーもいい。
 会場には彼らのCDもたくさんあって、早速今日聴いたもの(もちろんアマディオ兄さんがソリストのもの)を購入。
 パンフレットを見ていたら、なんと2週間後に東京での来日公演が控えているではないか!謳い文句も「日本におけるヴェネツィア室内合奏団が奏でる、真のヴィヴァルディの世界」だ。
 これは是非とも行かねば、「また聴けるなんて嬉しい!」と思いながら東京に戻ってチケットを求めようとしたところ、「完売です」と…。また来年も来ていただけることを願っている。

★上のパンフレット、合奏団メンバーの撮影場所は、聖ロッコ同信会館(スクオーラ・グランデ・ディ・サン・ロッコ)。本当に見事な室内装飾!

ティントレット《キリストの磔刑》(聖ロッコ同信会館)_e0036980_22051980.jpg
 この会館の絵画装飾は、ティントレットが20年以上かけて取り組んだもの。ペストに対する守護聖人聖ロッコの名を付けた同信会館だが、最初に描かれた絵が、「接客の間」にある、この《キリストの磔刑》を始めとする受難伝壁画と天井画だ。
 この部屋に飾る絵画については、コンペがあったものの、ティントレットが強引なやり方で獲得してしまったそう。なんとしても、ここに自分の絵を飾りたかったのだろうか。ペストから身を守りたいという、神頼み的な信念があったのかもしれない。
ティントレット《キリストの磔刑》(聖ロッコ同信会館)_e0036980_22111463.jpg
 ティントレットが会館の絵を手掛けている間に、人口の三分の一が犠牲になったペスト大流行を始め、数回のペスト流行があったが、10人家族のティントレット家は全員無事だったそうだ。これは奇跡に近いとのこと。(『ヴェネツィア・ミステリーガイド』市口桂子著より)
 そうしたことを思うと、ティントレットのライフワークというのも当然かもしれない。彼にとっては、ただの仕事以上の「何としても完成させなければならない」絵であったのだろうな、と想像を巡らせ、胸が熱くなってしまった。
ティントレット《キリストの磔刑》(聖ロッコ同信会館)_e0036980_22064237.jpg
 また、家族を大事にし、奥様にぞっこんだったそうだ。人となりを知ってみると、また絵も一段と身近に、生きたものとして迫ってくる。
 けれどもその絵は、個人を超え、祈りの象徴的な表れとなり、ティントレットの個性に彩られて、現在も存在している。
 ヴェネツィアの歴史を物語る宝だなと。