ラヴェッロからサレルノ湾を臨む汝はわが伊太利を戀ひし情のいかに切なりしかを知るか。一たび浄土を去りたるものの不幸は、嘗て浄土を見ざりしものの不幸より甚し。森鷗外 訳『即興詩人』より
昨年の外出厳重自粛中に夢中になったのが、鷗外訳の『即興詩人』。
きっかけは、たまたま目にしたネット記事で『即興詩人』の舞台がローマをはじめとした南イタリアであることを知ったからだった。数年前に訪れたナポリ、サレルノ、カプリ、アマルフィ、そしてパエストゥム!これは読まぬわけにはいかないと、実家にある岩波書店の鷗外全集を譲り受けてきたものの、旧漢字+文語体で呆然。でも、イタリアへの想いはそれぐらいでは怯まないのである。それならばと筑摩書房の『即興詩人』を取り寄せ併読。
このアンデルセンによる小説は、グランドツアー的な紀行文の趣きも強く、鷗外が惚れ込んだだけあって、光に満ちたイタリアの魅力が凝縮されている。
結局、鷗外はドイツ留学から帰国後、二度とヨーロッパの地を踏むことはなかった。さぞかし、イタリアへも訪れたかったであろう、留学時代の恋人とも再会したかったろうと切なくなる。時代というものの厳しさを感じずにはいられない。
今年は没後100年、日本を代表する文豪との出会いに感謝。